会報03号 阿波おどり「ぞめき」譜面のご紹介につきましてのお詫び

2016/08/21

会報03号におきまして、「ぞめき」の譜面をご紹介致しました。
楽譜ご紹介にあたりましては、「阿呆連」「娯茶平連」の二つの連の方々へ、
当協会理事の狩野嘉宏作成した質問にお答えいただくアンケート形式で依頼、ご協力をお願い致しました。
その結果、締め切りまでにご回答いただけました「阿保連」さまの文面を記事にいたしました。
 しかし、編集の過程で、質問文の掲載なく、「阿呆連」様の回答部分のみ掲載致しました処、
一部誤解の生じかねない表現となっている、とのご指摘を阿保連さまより受けました。
そのため、質問文の全文を含めた内容を会員の皆様方へ改めてご紹介することとなりました。
改めまして、関係者の方々へはご迷惑おかけ致しました。
深くお詫び申し上げます。

以下に、楽譜紹介に関しての協会からの質問文全文と阿保連さまよりのご回答の全文を
改めてご案内いたします。


~楽譜についてのアンケート全文~

1.『「ぞめき」「よしこの節」の譜面はあるのでしょうか?』

「ぞめき」の譜面で公開可能なものとしては、現在徳島市観光協会主催の鳴物教室で使用している譜面があります。この譜面は、もともと阿呆連独自のものとして作成し使用していたものですが、後に徳島市観光協会が鳴物教室を開催するにあたり、提供を要請されて使用を許可したものだと聞いております。今では複数の連が合同で演奏する時にはこれを吹く…というお約束になっているものです。

この譜面は唱歌と指穴を示しただけのシンプルな譜面となります。唱歌を口伝で伝えて、それにそって指を動かすという使い方をしますので、その譜面だけで全てが伝えられるわけではありませんが、今でも広く使用されています。ただしこの譜面は、元々のお囃子笛で吹いていたころに作られたものです。今は唄用・ドレミ調の笛が主流になってきていますので、それ用に多少修正して演奏する人、または団体が増えてきています。現在の阿呆連も修正した指使いで演奏しています。

徳島市観光協会が毎年行っている「鳴物教室」では、本来の形を残すという趣旨から、指使いの変化について説明した上で、古い指使いのものを教えています。

最近ではメロディをドレミや数字譜に置き換えて伝える人もあるようですが、五線譜では特徴的な運指などが表現しきれないため、五線譜的に都合の良いように変更されています。そのため「ぞめき」の雰囲気や、篠笛の良さもやや損なわれているように感じます。

「よしこの」は唄の譜面として民謡の本に掲載されているのを見たことがありますが、あくまで参考程度のものでした。

「阿波の殿様、蜂須賀様が、今に残せし阿波おどり。

踊り踊らばしな良く踊れ、しなの良いこを嫁にとる。

笛や太鼓のよしこの囃子、踊り尽きせぬ阿波の夜」

※しな=品、もしくは姿。

こういった歌詞を、ぞめきのリズムに乗せてゆったりと唄うもので、節回しというかこぶしというか、そういったものにこれが正解というものはありません。かといって、好き勝手に唄ったり吹いたりすれば、「それは何か違うなぁ」というのはよくあります。また、装飾を取り払った基本のメロディーがあるかといわれれば、こぶしや装飾があってこそのメ ロディー形成で、取り払うと形らしい形が残らないという…。難しくも面白い曲です。

 

 

2.『もしあれば、その譜面を公開することは可能なのでしょうか?』

鳴物教室で使用している「ぞめき」の譜面であれば可能ですのでPDFデーターを添付いたします。

かつて阿呆連から提供した譜面ですので、念のため阿呆連の堀内連長より公開の許可を得ております。

 

 

3.『あるいは、門外不出のような掟のようなものがあるのでしょうか?連による演奏の違いというのは、把握されているのでしょうか?たとえば対抗するあの連がこう吹いているから私たちはあえて違うように吹く・・・とか。先達の方からの伝承は、どのようになされているのでしょうか?譜面に沿って?口伝?対面で指を真似ながら?』

まず連による 演奏の違いですが、それぞれの連で大なり小なり違いはあります。

ぞめきは小さなパーツの組み合わせで形成されますので、その組み方や繰り返しの回数などを工夫すれば、かなりのパターンのメロディを構築することが可能です。ですが、実際のところは、現在では大きく2つの流れができており、そのメロディーから少しずつ変化していったという感じのものを使用している連が多いと思います。

2つの流れのうちの一つが、先述の阿呆連作成の譜面に基づくパターンです。

ちなみに阿呆連の場合は、これを含め5つのパターンを使用していまして、踊りの演出によって使い分けます。新人さんはそのうちの4つをお盆までに覚えます。基本以外のパターンについては、阿呆連連員以外に教えるということは、極力しないという方針です。今は 録音・録画機器が随分と優秀ですので、勝手に録画して研究する分には防ぎようもありませんので、取り立てて妨げるようなことまではしていません。

もう一つの流れの元になるのは、娯茶平連が考案し使用しているパターンです。こちらのパターンに基づくメロディも多くの連が使用しています。

近年、複数の連が合同で演奏する機会が増えてから、独自のメロディーの使用をやめて、合同演奏で用いるものに近いメロディに変えたという連もあったように記憶しています。

また、極僅かではありますが、個性を出したいという意図で、元々のパーツにないメロディを組み入れたものを新しく考案し使用している連もありますが、個人的には、阿波おどりのぞめきとしては少々違和感を感じるものが多いように思います。

先達の方からの伝承は、個々の連においては対面で指を真似ながらが今でも一般的だと思います。先述の譜面を用いる場合は、口伝と譜面と指真似とを併用します。

 

 

4.『クラシック音楽では、例えば同じベートーヴェンの「運命」に数えきれないほどの解釈の違いがあります。そして、何十年も前から古今東西、数えきれないほどの指揮者、オーケストラが、数えきれないほどの録音を残しています。中には、これが同じ曲か?と思わせるような演奏もあるわけです。聴けば聴くほど、調べれば調べるほど面白く興味深い世界があります。阿波踊りの世界も、長い伝統に培われた連独自のものがあるのではないかと興味津々です』

阿波踊りは時代とともに進化する部分と、伝統を頑なに守る部分と両方がうまく共存している芸能の一つだと思います。

踊りも鳴物も連ごとにそれぞれ特徴がありますし、解釈もさまざまです。ですがひとつ確実なことは、阿波踊りの鳴物は、踊りを踊らせる鳴物であるということ。それぞれの連の踊りの特徴に合った鳴物がそれぞれ形成され、踊りが時代とともに変化すれば鳴物もまた変化する。あるいは先に鳴物が変化し、それに伴い踊りのスタイルが変化する場合もありますが、いずれにしても踊りと鳴物が一体となること、それが阿波踊りの面白さのひとつだと思います。そのため、阿波踊りは原則、生演奏で踊ります。これも阿波踊りの特徴であり魅力のひとつだと思います。

激しく逸脱しすぎることはなく、根本的な伝統は重んじつつ進化し続ける。そういう心も伝承されているのが阿波踊りの面白い、良いところだと思っています。